[2016S教養学部前期/後期課程]古典ギリシア語初級(前半)
[松浦高志の授業用ページ]
目次
授業概要
以下の記録の正確性は保証しない.
- 開講
- 平成28年度(2016年度)Sセメスター
- 科目名(前期課程)
- 古典語初級(ギリシア語)I
- 科目名(後期課程)
- 共通ギリシア語(5)
- 科目名(後期課程:英語)
- Greek (5)
- 開講日時
- 金曜5時限(16:50–18:35)
- 時間割コード(前期課程)
- 30709
- 時間割コード(後期課程)
- 08A9205
- 教室
- 1号館104教室
- 教科書
- 水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店,1990).
- 履修人数(前期課程)
- 21名
- 履修人数(後期課程)
- 6名
- 学期末試験受験人数(前期課程)
- 16名
- 学期末試験受験人数(後期課程)
- 5名
授業日程
教養学部の授業日程に従う.教養学部の授業日程に変更があった場合はそれに合わせる.以下と教養学部の授業日程の間に齟齬があった場合は教養学部の授業日程の方に従う.
- 2016/04/08
- 2016/04/15
- 2016/04/22
- 2016/05/06
- 2016/05/16(月):5月13日の午後は五月祭準備で休講のため振替.
- 2016/05/20
- 2016/05/27
- 2016/06/10:6月3日は通常授業は行われない日.
- 2016/06/17
- 2016/06/24
- 2016/07/01
- 2016/07/08
- 2016/07/15:学期末試験.
学期末試験講評
予告しませんでしたが,学期末試験の講評を載せることにしました.
- おおむねよくできていました.
- 2人称単数がἐπαίδευσαςであるべきところ,ἐπαίδευσεςという解答がありました.-σα- が -σε- になるのは3人称単数だけと覚えるとよいと思います.
- おおむねよくできていました.
- υをyではなくuで転写している解答がありました.そのように転写する方式もないわけではありませんが,一般にはyで転写し,教科書でもそのようになっていますので,減点しました.このyはドイツ語のü,フランス語のuneと同じように発音することも忘れないでください.υをyuで転写している解答もありましたが,これは誤りです(英語でyが子音である場合が多いことが原因なのでしょうか).ξはxで転写してほしいところですが,ksでも減点なしとしました.
- おおむねよくできていました.
- b.はᾤκτιζονが答えですが,οἴ- という解答がありました.εὐ- で始まる単語の場合は加音が付されてもεὐ- のままであることもありますが(ただし教科書に明示的には載っていない),οἰ- で始まる単語の場合はᾠ- になります.
- b.はἔνειμαが答えですが,正答率がきわめて低かったです.「母音が長くなる」と書いてある場合,εはηになる場合とειになる場合とがあります.どのような条件でそのようになるかは教科書で詳しくは説明されておらず,それぞれの箇所で覚える必要があります.
- おおむねよくできていました.(イソクラテース第1番弁論第33節)
- おおむねよくできていました.(クセノポーン『アナバシス』第4巻第1章第21節)
- 「彼らは自分たちがよい人々だと言う」(文脈がないので「よき人々は自分たちが存在すると主張する」でもよいでしょう)が答えですが,正答率が低かったです.‘S₁VC’という文を間接話法にして‘S₂ φᾱσι S₁VC’とする場合,Vは不定詞にし,もしS₂とS₁が同じ人なら(すなわちS₂ = S₁なら),S₂またはS₁,あるいはその両方を省略し,Cは対格ではなくS₂に合わせて主格になる,ということを思い出してください.§41の最後の例(p. 24)と練習8-1を見てください.
- 「彼(女)はあなたがよい人々と悪い人々を区別することを教えた」あるいは「彼(女)はあなたに……」が答えですが,正答率が低かったです.τοὺς ἀγαθούςとτοὺς κακούςは形容詞が名詞化されたものですが,男性なので,「よい人々」「悪い人々」と訳す必要があることに気をつけてください.たとえば「よいこと」ならτὰ ἀγαθάとなるはずです.練習問題でも何回か出てきましたのでそれで十分練習できたはずですが,授業中に強調するべきでした.すなわち「形容詞を名詞化する場合,それが人ならば男性にし,それが物ならば中性にする」ということです.またἐδίδαξενの主語が彼(女)であることにも注意してください.「区別すること」という不定詞を主語にしている解答がありました.一般に古代ギリシア語では可能な場合,人を主語にします.ものを主語にする場合,特に抽象名詞を主語にする場合はかなり限られることに注意してください.たとえば‘What makes you ...?’という構文は,英語ではよく用いられますが,古代ギリシア語ではむしろ‘you’を主語にした構文の方がよく用いられます.(クセノポーン『ソークラテースの思い出』第3巻第1章第9節)
- 正答率はあまり高くありませんでした.εἶが「あなたは……である」であることに注意してください.εἶは覚えにくいですが,逆にそれが原因で小テストに出したので,覚えておいてほしいところです.「あなたは仲間の言葉(pl.)を報告するのにもっともふさわしい」が答えです.(11)と同様,「報告すること」という不定詞が主語でないことにも気をつけてください.(プラトーン『饗宴』172b5–6)
- おおむねよくできていました.
- ἐποιεῖτεは「あなた方は……作っていた」ですが,あまり正答率は高くありませんでした.またὥστεのあとが不定詞なので「……するほど」という意味の結果文(当然起こる,あるいは十分起こりうると考えられる結果)ですが,正しい解答はきわめて少なかったです.「あなた方は多くの叫び声をあげていたので,敵たちさえ聞こえるほどだった」あるいは「あなた方は,敵たちさえ聞こえるほど多くの叫び声をあげていた」が答えです.(クセノポーン『アナバシス』第2巻第2章第17節)
- 「私たちが探していた男はその人だ」が答えですが,正答率は少し低めでした.οὖτοςは指示代名詞であるということに注意して訳すとよいでしょう.‘This is the man who ...’
- 難しかったかもしれません.ὧνが関係代名詞の男性・中性複数であるということに気づくのがまず必要で,次に先行詞がないということに気づく必要があります.次に関係代名詞は内容上,つまり「私が支配しているところの人々」であることから男性であることに気づき,先行詞としてοὕτοιを補ってやり,ἐγὼ καὶ οὕτοιで「私と彼ら」になり,これが1人称複数であることに気づく必要があります.「先行詞はよく省略される」は授業中に強調しましたので,覚えておいてほしいところです.また教科書の残りの練習問題には何回も出てくると思います.μενοῦμενが未来であることも難しかったかもしれません.「私と,私が支配しているところの人々はとどまるだろう」が答えです.解答には影響がありませんが,単語集のκρατῆσωはκρατήσωの誤りでした.
- ほぼδίδωσινの変化がわかっているかだけの問題ですが,正答率は低かったです.語幹がδιδω- と長いので,単数形だと気づく必要があります.
- 「簡単だが少し長い文章」を読む練習でしたが,おおむねよくできていました.(クセノポーン『ギリシア史』第6巻第4章第19節)
感想とそれに対するコメント
答案の最後に感想を書いていただき,ありがとうございました.コメントをつけて載せてもよいと思われるものだけを選んで下記に挙げました.内容は適宜要約されています.
- 「ギリシア語は単語が覚えづらい」という感想と「言語を学んで単語を覚えていないというのは悲しい」という感想があったので,Aセメスターでは単語テストを実施する予定です(下記参照).
- 教科書の練習問題の解答例は(多くのほかの大学の教科書と同様)出版されていません.
- 読みたい作品はプラトーン『ソークラテースの弁明』,ギリシア悲劇,ホメーロス,ソポクレース『オイディプース王』,サッポーなどがありました.
- Aセメスターは金曜日だと受講が難しいので他の曜日がよいという声がありました.
- 練習問題の大変さなど,書いていただきありがとうございました.小テストの内容を少し増やし,練習問題を減らすようにするとよいかなと思いました.
Aセメスターについて
- 第20課から統語論(syntax)的に難しい項目が続出するので,Sセメスターと同じようなペースで少しずつ進めていきます.
- 最後の数課は動詞の変化を覚えるのがメインですが,この頃にはだいぶギリシア語に慣れてきているはずなので,早めに進めます.
- Sセメスターと同じペースで進めると原典講読を行う余裕はないですが,2のようにすれば1回程度原典講読を行うことができると思います.ごくわずかで申し訳ないですが,ギリシア語原典の雰囲気を感じ取ってください.
- 小テストはあまり負担が大きくならない範囲で少し分量を増やします.教科書の表を覚える以外に,単語テストを導入する予定です.たとえば「20単語覚えてそのうちの5個が出題される」という形で行います.同様に不規則動詞の変化の小テストも行いたいと思います.
第13回(2016/07/15)
授業内容
- 学期末試験(約95分).
連絡事項
- 練習18はAセメスターの第1回で答え合わせをします.
- Aセメスターも小テストを行いますが,第1回は行いません.第2回以降に行います.その内容は第1回の際に発表します.
第12回(2016/07/08)
授業内容
- 小テスト(12).
- 「第2アオリスト形について」.
- 練習16.
- 練習17.
- 教科書第18課§§89–91.
- 授業評価アンケート.
課題
なし.
配布物
- 「第2アオリスト形について」.
第11回(2016/07/01)
授業内容
- 小テスト(11).
- Smyth, Greek Grammar, §§315–316 (p. 87)解説.
- 練習14.9–10.
- 練習15.
- 教科書第16課.
- 教科書第17課.
- 教科書第18課§§87–88.
課題
- 小テスト(12).
- 練習16.
- 練習17.
配布物
- プラトーン『ラケース』194c–195a,和訳解説(pp. 148–149, 256–257).
- 「学期末試験について」.
第10回(2016/06/24)
授業内容
- 小テスト(10).
- プラトーン『ラケース』194d解説.
- 「学期末試験について」解説.
- 練習13.
- 練習14.1–8.
- 教科書第15課.
課題
- 小テスト(11).
- 練習15.
配布物
- プラトーン『ラケース』194c–195a,和訳解説(pp. 148–149, 256–257).
- 「学期末試験について」.
第9回(2016/06/17)
授業内容
- 小テスト(9).
- 練習12.
- 教科書第13–14課.
課題
- 小テスト(10).
- 練習13–14.
第8回(2016/06/10)
授業内容
- 小テスト(8).
- 練習10–11.
- 教科書第12課.
- 教科書第8課§§50.3–52.
課題
- 小テスト(9).
- 練習12.
第7回(2016/05/27)
授業内容
- 小テスト(7).
- 「不定詞」.
- 練習9.
- 教科書第10–11課.
課題
- 小テスト(8).
- 練習10–11.
配布物
- 「不定詞」.
上の「不定詞」の次の箇所を訂正してください.
箇所 | 誤 | 正 |
p. 1 (4) | もし不定詞が | もし定冠詞が |
第6回(2016/05/20)
授業内容
- 小テスト(6).
- 「古典ギリシア語のアクセント」練習a–d.
- 練習7–8.
- 教科書第9課.
- 教科書第8課(§§47–50.2).
課題
- 小テスト(7).
- 練習9.
第5回(2016/05/16)
授業内容
- 小テスト(5).
- 練習6.
- 教科書第7課.
- 「古典ギリシア語のアクセント」(1–9).
- 教科書第8課(§§47–52は省略).
課題
- 小テスト(6).
- 「古典ギリシア語のアクセント」練習a–d.
- 練習7–8.
配布物
- 「古典ギリシア語のアクセント」.
上の「古典ギリシア語のアクセント」の次の箇所を訂正してください.ITC-LMSにアップロードされている教材では訂正されています.
項目 | 誤 | 正 |
(5) | 次末 | 語末 |
(5) | 次々末 | 次末 |
(6) | 次末音節に | 次末音節が短母音でなく,次末音節に |
第4回(2016/05/06)
授業内容
- 小テスト(4).
- 練習4–5.
- 教科書第6課.
課題
- 小テスト(5).
- 練習6.
第3回(2016/04/22)
授業内容
- 小テスト(3).
- 練習3.
- 「ギリシア文字の入力方法」.
- 教科書第4–5課.
配布物
- 「ギリシア文字の入力方法」.
- 「格の用法」.
課題
- 小テスト(4).
- 練習4–5.
第2回(2016/04/15)
授業内容
- 小テスト(2).
- 「各種ギリシア文字書体」解説.
- 練習1.
- 練習2.
- 教科書第3課.
- 「練習問題の予習方法の例」解説.
- 「エウリーピデース『メーデイア』第72b–73a行予習例」解説.
配布物
- 「各種ギリシア文字書体」.
- 「練習問題の予習方法の例」.
- 「エウリーピデース『メーデイア』第72b–73a行予習例」.
課題
- 小テスト(3).
- 練習3.
第1回(2016/04/08)
授業内容
- 「古典ギリシア語」解説.
- 教科書第1–2課.
配布物
- 「古典ギリシア語」.
課題
- 小テスト(2).
- 練習1–2.
シラバス内容
講義題目
古典ギリシア語初級(前半)
授業の目標・概要
初級文法を1年かけて学び,古典ギリシア語で書かれた簡単な文章を読めるようにする.ギリシア語の文献は紀元前15世紀の線文字B粘土板にさかのぼる.使用地域はやがて東地中海地域全体,一時はさらにインド方面にまで広がった.哲学・歴史学・文学・科学などあらゆる分野に膨大な文献を有し,現在でも主にヨーロッパ文明を通じて大きな影響を与え続けている.古典ギリシア語とは,紀元前5–4世紀にアテーナイを中心とする地域で使われていたギリシア語のことを言う.これを学べば他の時代・地域のギリシア語や新約聖書のギリシア語も容易に学び得る.文献の豊富さゆえにラテン語,サンスクリット語などとともに印欧比較言語学に豊富な資料を提供するという点でもギリシア語は重要である.
授業のキーワード
ギリシア語、ギリシャ語、ラテン語、サンスクリット語、印欧語
授業計画
教科書は全36課から成っているので,Sセメスターはその半分くらいまで進めることを目標とする.初回はギリシア語に関する簡単な解説を行ったあと,第1課(文字と発音)と第2課(アクセント)を扱う.
授業の方法
予習は必須ではない.授業では教科書の内容を解説する.授業の最後に課題を出すので,それにもとづき1週間かけて復習を行ってもらう.課題の1つは暗記である.簡単な内容を覚え,次回の授業の最初に小テストを行って覚えられたかどうかを確認する.もう1つの課題は練習問題である.教科書各課末に付されている練習問題を解いてきて,次回の授業の際に出席者が順番に発表する.したがって授業の段取りは次のようになる.
- 小テスト
- 練習問題
- 教科書の解説
- 課題の説明
成績評価方法
平常点(出席,小テスト,練習問題)と学期末試験.
教科書
水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店,1990).3,500円+税.ISBN: 978-4-00-000829-7
参考書
参考書は使用しない.
履修上の注意
前半を受けただけでは文章を読めるようにはならないので,読めるようにするには古典ギリシア語初級(後半)も履修すること.また,Aセメスターには前半に当たる授業は開講されていないので,計画的に履修すること.
その他
予備知識は必要ないので,幅広い分野からの受講を歓迎する.毎回課題があって大変なように見えるが,学期末にまとめて勉強する代わりに毎日少しずつ勉強した方がよいので,その習慣をつけてもらうためである.教科書の記述は難しめで,練習問題も難しいと感じられるかもしれないが,授業で適宜解説するので絶望せずに受講してほしい.
Last modified: 2018/10/24
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© 2016–2018 MATSUURA Takashi